◆リヴルス事件
もうかなり前のことで、資料も手元に無いので多少うろ覚えの部分もありますが、今回は、地味なちょっと変わった卵生メダカの話をしようかと思います。
最初にその魚の話を聞いたのは、大学の魚類学の講義中でした。
「雌雄同体」の魚の話です。
魚には、一個体で卵巣と精巣の両方を持っている種類がいます。
そのほとんどは、性転換する魚として知られています。
熱帯魚でいうと、ソードテールなんかは、メスからオスになるものがいますよね。
他にも海水魚なんかには、ある大きさの時は全部メス、また違うある大きさの時はオスで、そのどちらでもない大きさの時はメスでもオスでもない、なんていう激動の一生をおくる種類もいます。
しかし、「性転換する」という事は、「雌雄同体」、すなわち、一個体が「同時に発達した卵巣と精巣を体内に持っている」、ってことではありません。
ですが、ただ一種類だけ、本当にこの雌雄同体の魚がいるのです。
それが、件の卵メ、リヴルス・マルモラトゥスでした。
そのリヴルスの「メス」は、成熟した卵巣・成熟した精巣の両方を一個体が持っていて、他人の助けを借りずに、体内で受精した卵を産む、ということでした。
つまり、一尾だけで受精・産卵が出来るのです。自家受精ってやつですね。
一応、精巣しか持たない「オス」も存在するそうですが、こちらは数が少ないんだとか。
とにかく、講義中やたら印象に残って、できることなら一度見てみたいと思っていました。
その4年後、私は研究チームこそ違え、その講義をしたT先生のいる研究室にいました。
当時、研究室では魚の繁殖行動やら卵・稚魚等の研究をしてる人間がほとんどで、なにかのはずみに、あのリヴルスの話になりました。
なんでも、アメリカの研究所で遺伝の実験に使われているのだとか。
水質にはうるさくないらしく、一尾ずつ少し水の入ったシャーレで飼育されていて、一日一個ずつ卵を産むそうです。(ニワトリみたい・・・)
「一度見てみたいです」という学生の声に、向こうの学会に出席したT先生、なんと研究所からリヴルスの卵を貰ってきて下さいました。
50個程の卵が、湿ったガーゼに包まれてビニールに入っていました。
内湾の汽水域にいる魚らしいので、半海水を用意し、水温は23度位にセット。
先生の指示で、卵を投入。
ほどなく、数日のうちにほとんどの卵が孵化しました。
稚魚は元気に泳いでいます。
「半年もすれば、成熟して産卵し始めるでしょう」
と、いう事で、単なる趣味ではありましたが、大事に育てることになりました。
更に駄目押しに、飼育に失敗して全滅させないように、20尾を某水族館が、10尾をT先生が、残りを学生が飼うことになりました。
いつか産卵する日を夢見て。
数ヶ月が経過しました。
例のリヴルスは全体的に灰白色っぽい地味な色合いながらも、よく見ると所々青い斑紋をきらめかせている、それなりに味わいのある魚になりました。
なんだかお腹もでっぷりしてきたように見えますが、まだ産卵はしません。
単なる食べ過ぎなのでしょうか。
水質あわなくて腹水たまってるってのは勘弁です。
そんな折、その知らせはやってきました。
「××水族館が全滅させました」
・・・やっちゃったよ。展示してなかったのが水族館としては幸いでしょうか。
リヴルスの世話はお魚班の下級生がしていたのですが、T先生の許可を頂き、私も自宅の水槽に2尾連れ帰りました。
日々アカムシを元気に食べますが、更に数ヶ月経っても産卵の気配は一向にありません。
大学でもまたしかり。どういうことなのでしょう。
そうこうしているうち、ふとある疑問が湧いてきました。
・・・これは本当にこの魚の「メス」なのかな?
カメやワニ等、いろんな種類の動物から、卵がすごした環境の温度で生まれてくる子供の性別が決まってしまう生き物がいます。
ワムシ等も、もともと「自家受精するメス」ばかりで、棲んでる環境が悪くなると、卵からは「オス」が生まれてくる・・・だったような。(ここで、悪くなった環境下で生き残れる子孫を残せるように、「メス」と「オス」とで、 お互いの遺伝子を混ぜ合わせ、新しい可能性にかけるわけですね)
このリヴルスも、もしかしてそうなのではないでしょうか。
私達は、孵化させる時に、全ての卵を同じ温度下で孵してしまいました。
もし、その温度が数少ない「オス」が生まれてくる条件であったら・・・。
それとも飼育条件が劣悪で、後天的にオスになっちゃったんでしょうか?!(ひええ)
−−うちの研究室がやってんのは地元の魚だし、こういうイレギュラーなのは・・・。熱帯魚関係の資料でも載ってたこと無いし。・・・あっ!先生の持ってる論文なら!
しかし、T先生は多忙で仕事以外のものを読むひまがありませんでしたし、こちらが調べようにも、山のような資料のどこにあるのかさっぱりです。
おまけに英語だから読みたくなあい。
いや、英語ならまだしも、向こうのお国の言葉だったらお手上げじゃん。
疑問はつのる一方ですが、確かめ様にも、解剖するわけにもいきません。
なす術も無く、更に数ヶ月が経ちました。
大学では、先生の飼っていた魚から、たったの一個だけ卵を確認したそうですが、あとは全くです。
一応「メス」は生まれていたんですね。
そうこうしているうちに、卒論だの修論だの学会だのという忙しい季節を迎え、とうとう全滅・・・。
うちのリヴルスはあいかわらず元気にアカムシを食べていましたが、一向に産卵しないまま時が経ち、やがて死んでしまいました。
「寿命だよ」
と先生はおっしゃいましたが、性別も含め、未だに真相は謎に包まれたまま。
全ての個体が「メス」であったかどうか・・・それはわからずじまいです。
うちで確実に1年半以上生きていたので、非1年魚だとは思いますが・・・。
ごくまれにですが、通販で扱われている種類のようなので、いつか機会があったら、また挑戦してみたいと思っています。
・・・ていうか、その前にT先生に論文かして頂いた方がいいかも・・・。
尻切れトンボですが、今回はこれでおしまい(汗)
P.S.書き終えた状態で、Kinoさんからのご紹介のあったHPでリヴルス・マルモラトスとして紹介されているのを拝見しました。
いろんな条件はやっぱり謎のままです。
あの時よりは、少なくとも少し飼育の腕があがりましたし、本当にもう一度ちゃんと飼ってみたいと思っています。
・・・後日談はこちら。
2001年12月 おさんぽ
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